思い出ばなし こんなお盆があればなあ|斎藤敏幸

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 社会に出た後,数回でいいから,こんなお盆を迎えることができたなら,本当に良かったのになあと,今でも思います。



 お盆になると、都会へ出て行ったこの街の子供たちが、家族を連れて両親のもとへと帰ってくる。

 大夕張の人口が一気に膨らむ。同窓会で仲間たちと酒を飲み交わす。少し歳を取ったけれど、元気な恩師を囲んで思い出話に花を咲かせる。

 暗くなると、鹿島小学校のグランドに集り、盆踊りを楽しむ。

 両親たちも負けじと、太鼓を叩いたり、お囃子を取ったりして、踊りを盛り上げる。老いも若きも一つになり、大夕張のお盆を楽しむ。

 翌日は、官行の川原で川遊びをする。いつもゲームに夢中になっている子供たちも、大自然に包まれ歓声をあげる。

 夜は池田屋食堂で、ビールを飲み、ラーメンを食べる。おばちゃんの元気な顔を見る。そして,鹿島小学校の坂道にある出店へと行く。本間商店のおじさんもまだ現役で店を出している。

 この街を支えてきた大人たちは,誰もがまだ元気で声をかけてくれる。やがて,神社から花火が打ち上げられる。見事な大輪が輝きを放ち、鹿島小学校の校庭を照らし出す。イタヤカエデの木も、嬉しそうに子供たちを包み込むように、枝を広げている。

 「どうだ,お父さんの生まれ故郷は、凄いだろう」と子供たちに誇らしげに言ってみる。

 お盆が終わると、両親に見送られ大夕張駅から汽車に乗る。子供たちは,別れを惜しみながらも、蒸気機関車がめずらしくはしゃいでいる。

 幸せそうな人々の歓声を聞きながら,イタヤカエデの木は呟く。「いつでも,帰って来いよ。ここは,お前たちの故郷なんだから...」


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