まぼろし探偵と指紋|高橋正朝 #12 

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 私がマンガ雑誌を毎月買うようになって、最初の2年ぐらいは、「 少年画報 」だった。

 その当時、マンガ雑誌としては最も売れていたと思われる。

 『 赤胴鈴之助 』が人気沸騰し、『 ビリーパック 』があり、手塚治虫 の『 スーパー太平記 』、それに、桑田次郎 の『まぼろし探偵』が加わった。

 いずれも、原作付きではなく、作者のオリジナル作品だ。

 ネットで『 まぼろし探偵 』をチェックすると、テレビドラマに関しては説明がわりとあるのだが、ラジオ番組に関してはとても少ない。

 私は、ラジオ放送のまぼろし探偵は毎回のように聴いていたが、テレビ放送は視聴していない。

 主人公、『 まぼろし探偵 』の新聞記者、富士進 の父親は、警視庁の警部という設定だ。この、富士警部 の声の出演は、ネットのチェックでは出てこないのだが、大平透 だった。

 富士進の先輩記者、黒星十郎 は、熊倉一雄 だ。

 ある事件が終わり、まぼろし探偵が去ったあと、富士警部 があることを言う。セリフそのものを覚えているわけではないが、次のような内容だ。

 「 う〜ん、素晴らしい少年だ。まぼろし探偵の正体は、いったい誰なんだろう ? 」

 そのセリフを聴いた私が、「 指紋をしらべれば直ぐわかるのにネ」と言ったら、両親とそばにいた近所のオジさんが大笑いした。そのとき、なんで私が笑われたのか意味が分からなかった。

 犯罪者でない人の指紋を警察が勝手に調べるのは、違法である、なんてことは、年端のいかない純真 ? な 子どもには知る由がない。

 話はそれるが、実は、私の両手の指10本の指紋は、警視庁の記録に残っているハズだ。

 係官が、私の右手の親指に、墨よりも粘着性のある真っ黒いインクを塗りつけて、「 は〜い、力を抜いて 」と係官が言い、係官の手を添えた私の指の45度ぐらい側面から腹、さらに反対側の側面45度ぐらいまで回し、紙に転写するのだ。

 こういうふうにして10本の指の指紋を採られた。相撲取りの手形のように、掌紋も採られるのか、と思ったが、それはなかった。あくまで指10本だけだった。

 インクはどういう種類のものかまったくわからない。粘着性の度合いは、謄写版のインクのような感じである。普通のティッシュで指からきれいに拭えた。紙は模造紙のような感触だが、正確なことはこれまたわからない。

 転写された指紋は真っ黒である。指紋のスジなどはまったく見えない。指紋を採られた私自身、疑問を感じた。しかし、係官がそれぞれの私の指に手を添えての指紋採取であるから、これで指紋が完璧に採れているのだろうナ。


 これで、私は、悪いことをして、その場に指紋が残っていればすぐに捕まってしまう••••••。

 このときの指紋採取は、『 無犯罪証明書 』を入手するためのものだ。私が海外で働いたのは、リビアが初めてだった。当時のリビアでは、『 労働許可証 』発行する条件の1つに、当人の『 無犯罪証明書 』が必要だった。

 これは、居住地の都道府県県警本部で発行してもらうことになっている。私は、当時、東京都内に住んでいたのて、桜田門の警視庁に行った。警視庁に行ったのは、このときが初めてだった。入り口の両側には、長い棒を持った警察官が2人立っている。私は過去に何も悪いことはしていないけど、でも、生来、小心者なので、ちょっとドキドキした。

 手続きに行った当日の申請窓口には、私以外2人しかいなかったが、『 無犯罪証明書 』受領指定日に行ったら、50人ぐらい待っていた。若い人が多く、外国留学が目的で、その留学先が『 無犯罪証明書 』を要求したらしい。

 『 無犯罪証明書 』は、封印された封筒に入っているので内容はわからないが、犯罪を繰り返す者は、相手先は、たぶん受け入れないだろう。また、思想犯、学生運動過激派、カルト集団に属する者は、受け入れ先は拒否するものと思われる。


 私の指10本の指紋採取は、『 無犯罪証明書 』作成に必要な行為なので、指紋を採られるのは仕方がない。

 『 無犯罪証明書 』のために採った指紋は、犯罪捜査には使用してはならない、とされている。ホントかネ ? なにか、矛盾しているような気がするが••••••。しかし、建て前ではそうなのだ。

 そういう建て前だから、犯罪を起こしていない、正義の味方の『 まぼろし探偵 』の指紋を調べるというのは、言語道断ということになる。

(2020年11月7日 記)


 (筆者略歴)

昭和23年11月に明石町生まれ。鹿島東小学校から鹿島中学校に進み、夕張工業高校の1年の3学期に札幌に一家で転住。以後、仕事の関係で海外で長く生活。現在は、タイ、バンコクで暮らす。



1件のコメント

  • TV番組の『まぼろし探偵』からの世代ですが、『まぼろし探偵』は、よく自分でも絵を描いていました。
    雑誌の付録にも、あの眼鏡が付いてきて(自分で厚紙に描いて作ったりもした)、首に風呂敷巻いて、いい気持ちで遊びました。
    ラジオは聞いていなかったですが、その後、大平透さんも、熊倉一雄さんもあの独特の渋い声は小さい頃から親しんだもので忘れられないです。
    残念ながらお二人とも数年前にお亡くなりになっているんですね。
    それにしても、『無犯罪証明書』というものがあり、指紋採取があるというのも初めて知りました。

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