明治45年8月 大夕張炭山近況

19677

北海タイムス(1912年〈明治45年〉8月6日)記事

【大夕張炭山近況】

従来の施設と将来の計画

  • 松隈鉱長曰く大夕張炭礦株式会社時代に於る同鉱の施設は 一見頗るハイカラ風にして 坑内外の経営は略ぼ完成したる如き 観かるも仔細に之を検覈せば 凡て外観を美装したるに過ぎずして 其実質に至りては確たる方針の上に樹立したる設計にあらず 為に今後其用を成すもの尠かるへしと 目下出炭をなしつつあるは 滝の沢坑のみにて 同鉱の宝庫と目されつつある若葉坑は 現今掘進中にして毎日多少の出炭あるも石炭輸送機たるインドレスの完成せざる為め 輸送をなす能わず 目下鋭意工事進行中にて遅くも十月頃迄に完成せしむる筈なりしと同時に 若葉坑附近に更に一ケ所の坑口を開鑿する計画にて之亦諸般の準備中なりし 亦現今廃坑となりし錦坑は巨額の起業費を投じたるも 事業進行に連れ 断層に逢着し 更に巨額の資金を注入し 探堀を為すの要あるが故に 前大夕張炭礦会社経営の時代に於ては 資金の関係より廃坑となすの余儀なきに至りしも 三菱合資会社の掌裏に帰したる上は 相当なる調査を遂げ 或は復旧するや難儀と云う

鉱区の面積

  • 大夕張炭礦会社所有の鉱区数は十四にして 此面積千三百八十万坪余此延長三里余に跨りつつありしが 若葉坑奥に於ける鉱区内の炭層は頗る有望にして 其埋蔵炭量の如き予め知る能わざるも 非常の巨額に達するならんと 現在の私設鉄道は更に三里余を延長し 之等の豊富なる石炭の輸送をなす計画ありとの世評なりしが 斯の如きは近き将来に於て実現すべからざるも 三菱の同社を手中に収めたる必ずやより以上の画策あるならんと推せらる 少なくも北海道石炭界に於て三井三菱相対抗し 覇を争わんとせば夕張炭の多少を以て縢を制するの覚悟なかるべからざるは 自明の理なるを以て 世評の決して偶然ならざるを知るに足る 之を要するに三菱の本道石炭界に嘱目したる 一日にあらず而かも実地に其掌裏に収めたる大夕張炭山を以て第一着手となせるを以て 同鉱事業経営は世人の尤も注目する処にして 本道石炭界に一新紀元を画すべき一大規模の経営と欧米最新の方法を斟□□て採炭をなし以て 本道鉱業界に貢献□□啻に邦家の利益のみにあらざるなり

(一日付特□員)


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