小説・創作

迎え人(びと)|夕輝文敏 夕輝文敏

迎え人(びと)|夕輝文敏

)  五月晴れのある日、洗車をしていると、女の子が近づいてきて、   「お父さん、ドライブに連れて行って」    と少し大きな声でいった。    周りを見渡すと洗車場には私しかいなかった。    女の子は私の前で立ち止まると、にっこりと笑った。    しばらく私はその子を凝視した。    間違いない…
路面電車に揺られて|夕輝文敏 夕輝文敏

路面電車に揺られて|夕輝文敏

   路面電車に、少し疲れた心を乗せると、路面電車は、優しく包み込んでくれるかもしれない。年の瀬も迫ったクリスマスの夜、私はそんな路面電車に出会った。    その夜、私は一人ぽつりとグラスを傾け、店の窓から路面電車を眺めていた。    電車の車窓の向こうには、昨夜の食卓テーブルが見えてくる。クリスマ…
タイムカプセル |夕輝文敏 夕輝文敏

タイムカプセル |夕輝文敏

 西暦2050年、夕張岳の麓に新しい街ができはじめた。    90年も前に、かつて炭鉱で栄えたように、再び原野に街ができた。  街の名は、大夕張と呼ばれていた。      2000年代前半、未曾有宇の原油高騰と地球環境問題が切迫する中、代替エネルギーとして、石炭が注目された。政府が夕張で試験的に進め…
希 望|夕輝文敏 夕輝文敏

希 望|夕輝文敏

 十一月の冷たい雨が、歩道に散った落ち葉を濡らしていた。人通りの絶えた日曜日の夜、雨音だけが、シャッターを閉めた商店街を駆け抜けて行く。   眠りにつこうとしている通りの中、一軒の寿司屋には、まだ明りがついていた。  だが、暖簾は外されていた。   丸万寿しの大将、山越信明は、最後にもう一度と、長年…
バス停 |夕輝文敏 夕輝文敏

バス停 |夕輝文敏

 そこには、寝息を立てて横たわっている七二歳の父がいた。  ここが病院のベッドでなければ、まるで安らかに睡眠をとっているかのようであった。  屈強な体で、かつて石炭を掘り続けていた父が、今は病院のベッドの上で生死の境を彷徨っていた。      今朝方、父はスキー場の倉庫で意識不明の状態で発見された。…
赤いポスト|夕輝文敏 夕輝文敏

赤いポスト|夕輝文敏

 小学校の入学祝に何が欲しいかと聞くと   「おじいちゃんが郵便局長をやっていた大夕張へ行ってみたい。ねえ、いいでしょう」 と泰樹は言い出した。    泰樹が物心ついた頃は、幸一の父、杉沢忠勝は、すでにこの世の人ではなかった。  だが、幸一はまるで忠勝が生きているかのように   「おまえの、北海道の…
夕輝文敏さんについて |飯田雅人 夕輝文敏

夕輝文敏さんについて |飯田雅人

 『ふるさと大夕張』の掲示板で、大夕張文壇の至宝と、言われていた夕輝文敏さん。  初投稿以来、数多くの作品で、大夕張人を楽しませてくれました。  先日、掲載された、『送り人』。  久しぶりの新作となりましたので、この辺で、私が知るところの作者の夕輝さんについて、紹介したいと思います。      夕輝…
海岸列車の女(ひと)|夕輝文敏 夕輝文敏

海岸列車の女(ひと)|夕輝文敏

 あの頃の僕は、心の内に先の見えないトンネルを抱えていた。暗闇の中で出口を求めていたが、まだ光を見出すことはできなかった。そんなときに、僕はあの女に出会った。  札幌発小樽行きの海岸列車に、あの女は、ほしみ駅から乗車した。夏休みに入り学生たちの姿も消え空席が目立つ中、あの女は優先席に静かに座った。ま…
約 束|夕輝文敏 夕輝文敏

約 束|夕輝文敏

「いいか、今年のクリスマスは特別なんだ。明日の夜八時教室に集合だ。わかったな」  初の言葉に、正春も武も大きく頷いた。  年が明けて三月になると、三人の小学校は閉校となってしまう。  全校生徒十二名中五年生は初たち三名であった。  初たちが生まれる前に、この街を支えていた炭鉱が閉山となってしまった。…
イリュージョン /大晦日の奇跡|夕輝文敏 夕輝文敏

イリュージョン /大晦日の奇跡|夕輝文敏

(目次) 路地裏目覚めサイレンの音父の背中年越しの夜葉 書 路地裏  隆一はその夜いつになく酔っていた。  同僚と別れた後、すぐにタクシーを拾おうとしたが、どれも満車であった。年の瀬のススキノは、人で混み合っていた。  隆一は仕方がなく、冷たい風に当たりながら、酔いを覚まそうと歩き出した。  しばら…