pH ( ペーハー ) | 高橋正朝 #55

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 鹿島中学校2年生の理科の授業で、水の電気分解が実施された。

 窓の外の木々は、まだ緑の葉をつけていたので、2学期になって間もないころだったと思う。

 理科の担当は、デンスケと生徒たちが勝手にアダ名した、大宮六郎 先生だった。

 私たち K 組の担任でもあった。

    

 当時、私の席は、教壇のすぐ前だった。

 それで、その実験を、ホンのチョッピリ手伝うことになった。

 そのわずかな手伝いとは、電気分解でできたガスが、酸素と水素であることを確認するために、火をつけた紙をガスに近づけることだった。

  

 発生したガスが、はたして何であるか ?、という原初からの追求ではなく、それらのガスは、酸素と水素である、という前提での実験である。

    

 皆さんご存知のとおり、+ 極から酸素が発生し、― 極から水素が発生した。

  

 大宮 先生が、試験管の口を親指で押さえて逆さにしていたのを反転させ、親指を離したところを、私が火をつけた紙を近づけると、ボッ ! という感じで、ガスが燃えた。 水素である。

   

 次の試験管には、火炎を消した紙を入れたら、紙は炎をだして激しく燃えた。 酸素である。

    

 この、酸素ガスが発生した試験管に入れた紙が燃えつきた直後、大宮 先生が、試験管の口を親指で塞ぎ、逆さにしたまま水槽に入れた。 親指を離した途端、ゴボッ ! という感じで、水が試験管の中に立ち上がった。

     

 試験管内の酸素が紙の燃焼に使われたため、酸素の減少した体積分だけ、水槽の水が浸入したわけだ。

 テキスト上は、20 % の体積ということになる。 テキストでは知っていても、その事象を眼前で見ると、やはり新鮮だった。

   

 この実験をするために、大宮 先生が持ってきたものは、試験管2本、水槽、蓄電池だった。 このとき、リトマス試験紙も持ってきた。 

  

 リトマス試験紙の実物を見たのは、そのときが初めてだった。

 蓄電池は鉛蓄電池だったので、電解液が、酸性であることを見せるためのチェックだった。 リトマス試験紙だったので、数値はわからず、酸性か否かの判定だけだった。

    

 物質の、酸性、中性、アルカリ性、という言葉は、鹿島東小学校の高学年には知っていたような気がするが、はっきり認識したのは、やはり、鹿島中学校2年生になってからだ。

    

 pH の数値が直線の表になったものを、教科書で見てからだった。

 このとき、pH の数値が大きければ、アルカリ性が強くなる、という表を、しげしげと眺めていた。

    

 大夕張にはまったく関係ないのだか、この pH については、後年、私が東京でビル管理の仕事をしていたとき、職場のスタッフの同年ぐらいの男性が、

 

「そうだけど、何で中学校の理科のことを今更訊くんだ ? 」

    

「ウチのヤツ( 奥さんのこと )の弟が、浪人なんだけど、その弟とウチのヤツが、pH の数値が大きいと酸性だと、言い張るんだ 」

    

 たまたま、私のロッカーに、消防設備士、危険物取扱者、ボイラー技士、などのテキストがあり、それらを熟読していたので、すぐに pH の項目をだしてそれらを読ませた。

    

 彼氏、欣喜雀躍で、それらのテキストを持って帰宅した。

    

 翌日、「 pH の件、どうなった ? 」と訊いたら、

 

「 ウチのヤツ、「アッ、そう 」の一言なんだ。義弟もそうだった。アタマにきてアタマにきてしょうがない 。ハラワタが煮えくり返る 」

   

とはいうものの、彼の奥さんは、カワイイ系の美人で、彼はベタ惚れだったから、ケンカにはならなかったろう。

   

 この、水素イオン濃度指数( pH )の数値が大きいと酸性だ、という思い違いは、わりとあるようだ。

    

 念の為、pH をネットでチェックしたら、現在は、ピーエッチと呼称し、学校ではそのように教えているようだ。

    

(2021年8月28日 記)


 (筆者略歴)

 昭和23年11月に明石町生まれ。鹿島東小学校から鹿島中学校に進み、夕張工業高校の1年の3学期に札幌に一家で転住。以後、仕事の関係で海外で長く生活。現在は、タイ、バンコクで暮らす。


1件のコメント

  • 高橋さんが、これだけ詳しく当時の授業を復元できるのは、当時の記憶だけでなく、その後の進路や生き方とつながっているのだろうなあ、と思う。
    自分も、中学校、いや小中高まで広げて、心に残る授業があっただろうかとふり返ってみた。
    ・・・PCの前で考えたが、出てこない。散歩に出て1時間考え続けたが、出てこない。
    出てくるのは、当時の先生方の表情や立ち姿であったり、生活指導の緊張場面であったり、ポマードの匂いであったり、勉強の場面は残念ながら出てこなかった。トホホ。
    いかにぼんやり授業を景色として捉えていたのかがわかり、むしろ、自分らしいと納得してしまった。

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