トンプク( 頓服 ) | 高橋正朝 #79
私が、鹿島東小学校4年生のときである。
新聞の4コママンガがある社会面に、小さな記事が載った。
〘 男性が頓服で自殺未遂 〙という記事であった。
この〘 頓服 〙という漢字が読めたのは、家にあった〘 置き薬り 〙の箱の中には、必ずあったものだったからだ。
ひらがな若しくはカタカナと漢字で書かれていた。
せき、熱、頭痛に効能があることが書かれていた。 粉薬で、正五角形でなく、少しひしゃげた五角形のハトロン紙のような紙に包まれ、それが5包まとめて紙箱に入っていた。
その紙箱は、3ケか4ケあった。
私は、〘 頓服 〙を、風邪薬の異名だとばかり思っていた。
新聞の記事には、男性が服用した数量をハッキリ書いていたが、今となっては正確には思い出せない。 20から30包ぐらいであったと思う。 風邪薬を飲んで死ねるのかと疑問を感じ、それを母親に訊いた。
「 そうみたい 」
と、アッサリした回答だった。
その後も、〘 頓服 〙を服用して自殺しようとした未遂の記事を、2〜3回ぐらい、大夕張時代に読んだ。 自殺未遂者はいずれも男性だった。
〘 頓服 〙を、風邪薬だと思っていたのは、結構いたようだった。 〘 頓服 〙の意味を知ったのは、20歳代の半ばに偶然に読んだ、雑学を編集した文庫本からだった。
今では、スマホでネットに接続すれば、簡単にわかるが、当時は、もし、〘 頓服 〙という名詞を調べようとしても、簡単ではなかった。 一応、〘 広辞苑 〙などの国語辞典には、〘 頓服 〙は載っているが、短い説明だ。
医者や薬剤師、看護師、保健婦、医学生たちには、〘 頓服 〙の意味など、薬のイロハのイだろうが、私の年代では、〘 頓服 〙は、風邪薬だと思いこんでいる人はわりといて、現に、私が住んでいるバンコクのアパートの日本人の同年代男性たちも同様である。
20代の男性2人は、トンプクの名詞すら知らない。
当時飲んだ粉薬は苦かった。 舌にのせた粉薬を、すぐに水で飲み下した。
私が、鹿島東小学校2年生のころに、オブラートがでてきた。
苦い粉薬をオブラートに包んで舌にのせ、水で飲み下すわけだが、ぶきっちょな私は、粉薬が入ったオブラートを上手く飲む込めず、粉薬の一部が口の中にこぼれることが普通だった。
錠剤やカプセル剤が普通な現在、粉薬をオブラートに包んで嚥下するのは、もはやないのではないか ••••••。
小説などで、直接的な言葉をさけるための表現として、『 オブラートに包むように •••••• 』という文章は、以前は見ることもあったが、今日では見ることはなさそうだ ••••••。
(2022年2月19日 記)
昭和23年11月に明石町生まれ。鹿島東小学校から鹿島中学校に進み、夕張工業高校の1年の3学期に札幌に一家で転住。以後、仕事の関係で海外で長く生活。現在は、タイ、バンコクで暮らす。
「とんぷく」というコトバは、小さい時からよく使っていたような気がする。
でもあまり意味はよく理解していなかったようだ。
今回、あらためて調べてみると、「とんぷく」というコトバについて知っている人は、80%、しかし内容について理解している人となると30%くらいだということだった。
5角形の薬包紙。そういえば、父親に折り方を習ったことがあった。
なかなか思ったように出来なくて苦労した記憶がある。
家にはオブラートの箱の買い置きがあった。
オブラートの箱から薄い一枚のオブラートを取り出し、薬包紙の粉薬を二つに折ってオブラートの中心に流し込み、その端をちょっと舐めてから丁寧に包み込んでクスリを飲んでいた父の姿を思い出した。