食憶(その6 三尺鯉)|長谷川潤一

19907

 川の大物話を食憶にからめましてひとつ・・。

 緑町にいた親戚のおじさんがなかなかの釣り名人でして、五月のダム増水の時期に、三尺モノの鯉を釣ってきました。

 一メートル以上の大物を釣ると、シューパロ湖の主みたいな紹介で、写真付きで新聞に載ったものですね。

 さっそく長屋に野次馬根性で見に行くと、大きな金ダライに黒光りした見事な巨鯉が背中を出して入ってました。

 写真を撮ったり、魚拓をとったりと、噂を聞いた太公望たちが集まり、酒が入って盛り上がっていたとき、突然、その場を切り裂く恐怖の悲鳴!! 

 なんと、たらいの鯉の背中ににチョンチョンとちょっかいをかけてた猫の前足に鯉がバックリと食らいついたんです!

 水は飛び散り、猫と鯉は絶叫と共にのたうち回り、他の猫は興奮してもう大騒ぎ。

 釣り上げるのに一時間以上、自転車で帰ってくるのにまた一時間ぐらい、写真だ魚拓だと、お披露目酒盛りはじめて、更に三時間ぐらいは悠に経ってると思うんですけども、恐るべし巨鯉の生命力!

 みんな大騒ぎでション便ちびってガタガタ震えている猫の足を外しました。

 その後、その尊大な生命力にあやかろうというで、生で一口、みそ煮で一口、いただきました。

 小骨というか、身のしまりというか、まだ子供だったのであまり美味しいとは思わず、シャリシャリという食感しか憶えていません。

 大きな透けた黄金色の、丈夫な鱗を夕日にかざして見たのを憶えています。

 シューパロ湖には、まだいますよ、主が・・・。

(2000年03月17日 記)


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