緑町浴場帰りの兄 |小野美音子
2021-08-14
2022-05-04
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「宝の沢探検」を愛した私の兄、伸也は、大人になっても仲間と川上りで秘境の滝を再発見し、日本の滝百選に応募し選ばれたり、アラスカに行き、ローカルな新聞やTVに出て、母を喜ばせる、ゴッツい山親爺になりました。
そのコワモテの風貌は、新聞屋の親戚の役にも立ち、お金を払わない客の家の玄関に、兄がヌッと立つだけで払ってくれたという話もあったようです。
その3才違いの兄との40年前の思い出です。
夏のある日、父の背中におんぶし、兄と3人で緑町のお風呂に出かけました。
父が知人と話し込んだので父を置き、兄が、
「もう帰る!!」
と言い出しました。
私はおんぶで来たので、靴が無く、裸足で帰るのかと思っていたら、8才だった兄が、5才の私をおんぶし始めました。
たった3才違いですから、重かったに違いありません。
踏み切りの勾配をクリアし、鹿島小の坂を転ばない様に上り終えた頃には、息が「ハァハァ」と、荒くなっていました。
鹿島小の石畳の所に来て、私が、
「もういいよ、平らだから」
と言い降り、玄関前で水を飲み、松の木の下で休みました。
もう足は地面につき、汚れていたので、その後は歩くつもりでしたが、鹿島小裏の物置付近は、釘やガラスが沢山落ちているので危険と兄は思い、再び私をおぶり、何とか緑ヶ丘の家までたどり着きました。
この兄にはおかずを取られたり、私の名前の1字を「ノラ」や「ドラ」に変換し、人間様以下、猫族最下層の身分で呼んでもらったこともあるが、自分がどんなに苦しくとも、私を怪我から守ってくれたことに、感謝している。
この兄のお陰で、依頼心の強いみそっかすの妹の私も育ってしまったが、現在自分の子育てを通じて矯正中となっております。
(2001年12月04日 記)