緑町浴場帰りの兄 |小野美音子

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 「宝の沢探検」を愛した私の兄、伸也は、大人になっても仲間と川上りで秘境の滝を再発見し、日本の滝百選に応募し選ばれたり、アラスカに行き、ローカルな新聞やTVに出て、母を喜ばせる、ゴッツい山親爺になりました。

 
 そのコワモテの風貌は、新聞屋の親戚の役にも立ち、お金を払わない客の家の玄関に、兄がヌッと立つだけで払ってくれたという話もあったようです。

 
 その3才違いの兄との40年前の思い出です。

 夏のある日、父の背中におんぶし、兄と3人で緑町のお風呂に出かけました。

 父が知人と話し込んだので父を置き、兄が、

「もう帰る!!」

と言い出しました。

 
 私はおんぶで来たので、靴が無く、裸足で帰るのかと思っていたら、8才だった兄が、5才の私をおんぶし始めました。

 たった3才違いですから、重かったに違いありません。

 踏み切りの勾配をクリアし、鹿島小の坂を転ばない様に上り終えた頃には、息が「ハァハァ」と、荒くなっていました。

 鹿島小の石畳の所に来て、私が、

「もういいよ、平らだから」

と言い降り、玄関前で水を飲み、松の木の下で休みました。

 もう足は地面につき、汚れていたので、その後は歩くつもりでしたが、鹿島小裏の物置付近は、釘やガラスが沢山落ちているので危険と兄は思い、再び私をおぶり、何とか緑ヶ丘の家までたどり着きました。

 

 この兄にはおかずを取られたり、私の名前の1字を「ノラ」や「ドラ」に変換し、人間様以下、猫族最下層の身分で呼んでもらったこともあるが、自分がどんなに苦しくとも、私を怪我から守ってくれたことに、感謝している。

 
 この兄のお陰で、依頼心の強いみそっかすの妹の私も育ってしまったが、現在自分の子育てを通じて矯正中となっております。

 

(2001年12月04日 記)


随想

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