シナノキ
7月上旬のある晴れた日の夕方、散歩をしていると、小さな白い花を付けている木の下を通りかかった。
すると、日中のあたたかい空気の名残りに混じって覚えのある甘い香りがした。
それはどことなく懐かしく、子どもの頃の夕暮れ時の家路につく道端の樹と同じ匂いだと思った。
さっそくスマホに入れてあるアプリで、写真を撮り、木の名前を調べた。
写真を送信すると、AIが自動的に木の名前を探してくれる。
こういうとき、今は本当に便利に世の中になったと思う。
写真判定で次のように名前が出てきた。
(葉の形からそう判定されたようだ)
『フユボダイジュ(冬菩提樹)「シナノキ」属の一種』
説明には、
「フユボダイジュ(冬菩提樹)は、ヨーロッパなどの街路や公園でよく植栽されている落葉高木です。初夏に咲く白い花には、糖度の高い花の蜜を目当てにハチが多数集まります。花自体も蜜蜂のような甘い香りがします。」
とあった。
『シナノキの一種か、へえ-大夕張にもあったかもしれないな』とその時思った程度で、大夕張に咲いていた樹木の名前など覚えているはずもなく、あとは忘れていた。
ところが最近思いもかけず、「シナノキ」という言葉を目にした。
お気づきだろうか・・・。
ダニ峠の物語 伝説狐つきの中で行方不明になった雄三が、木の下で無事発見されたが、その木の名が「しなの木」と書かれていた。
自生していたのかどうか、専門知識もない自分にはわからないが、当時南部にあったのなら、大夕張でも自生していたか、そうでなくても当然、人々の移動に伴って大夕張にも持ち込まれていた可能性はあるだろう。
そう思うと、あの夕方の日中のあたたかい空気の名残の中で感じた木の下で感じた匂いは、やっぱり大夕張の薫りだったに違いないと、確信したのだった。
シナノキは、日本全国で見られ、北海道で多く見られるそうである。
忙しい日々の中で、わずかばかりの時間、足を足を止めて周囲の街路樹に、目を向けてみてはいかがだろうか。
ひょっとしたらあなたの身近な意外なところで、「しなの木」が故郷で感じたあの甘い薫りを漂わせているかもしれない。
シナハチミツは私の大好物です。
もと新潟のとある大学教授から面白いことを聞いたことがあります。
「山全体の樹種を調査するのはたいへんな作業だけど、シナノキは割と簡単
に調べられる。シナノキは白い花が一斉に咲くので、他の樹種と区別がつく。
そんなとき、離れたところから双眼鏡で見て本数や占有面積を数えることが
できる。」とのことでした。市街地でも、香りで気付くことがあります。