日帰り旅行をした大夕張の犬 |久々湊真一

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 泉町のみなと印刷には、シェパード犬がいた。

 名前をトムと言う。

  

 大夕張の過酷な自然条件にもかかわらず、18才(昭和32年~50年)の長寿をまっとうした。

  

 トム君は番犬としては全く役に立たなかった。

 人懐こくて、誰にでも尻尾を振る。

 
 たぶん泥棒にも、尻尾を振って愛嬌を振りまいたのだろう。

 多少 りりしいのは、大夕張のサイレンに合わせて遠吠えをする事くらいか。

  

 でも、実にうまい。結構な長さまで頑張るが、頑張りすぎて咳き込んだりもする。

 
 賢かったのは認める。 

  

 ある日 官行へ釣に行き、放し飼いにして遊ばせていた。

 

 こちらが釣に夢中になっていると、かまってもらえないとの意志表示か、釣竿のあたりに、勢いよく飛び込みを行う。

 

 私が怒ると、大喜びなので困った。

 
 更に困ったのは、つないでいてもいなくなる事だった。

 

 尻を外側に向けて鎖をピンと張り、首輪に手をかけてスルっとはずす。

 

 気がついたら、犬小屋には鎖と首輪しか無かった事が度々あった。

 しかし腹が減る夕方には、ちゃんと帰ってくるので、苦笑するしかない。

 

 
 何をしていたのか、一部は判明している。蒸気機関車と競争をして走っていたらしい。

 

 大夕張から千年町。 出発するまで待って、千年町から南部の鉄橋あたりまで走ったようだ。

 

 そんなわけで、運転されていた方に随分可愛がって頂いたようです。

 
 ついには機関手の横に乗せて貰ったことも度々とか。

 そうやって、夕張まで単独旅行をしてきたらしい。

 

 父が機関手の方から教わり返事に窮したと笑っていました。

 
 振り返れば、のんびりした良い時代でした。

 

 トムのなきがらは、線路の近くに埋めて小さな木を目印とした。

 

 平成2年に確認をしたら、私の背丈よりも大きな樹に成長していました。

 

 

(2001年5月31日 記)


思い出ばなし

1件のコメント

  • 泥棒にも尻尾を振る。なんの不思議があろうか?
    長屋で鍵の掛かっている家なんかなかったと思う。
    トムは多分賢い犬だったんだと思います。蒸気機関車の件ですが自分も一度だけ運転席に。
    母に犬を飼いたいと言ったら、家には二匹いると言われた。アパートで野良犬に左太ももを咬まれがいつかは身近に思っていたが友にする事はかなわなかった。

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