山はきれいだぜ|内川准一

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 今日3時過ぎ、札幌市内のビルから純白の夕張岳が残照に染まって美しかった。

 朱鷺色というのか、暗い色の空を背景に、そこだけスポットライトを浴びているかのようにくっきりしていて、涙が出そうになった。

 
 思わず「父さん!」とつぶやいた。

 

 
 あの場所で、父は命がけで石炭を掘り、子供らを育てた。

 
 真っ黒い顔で、坑道から上がってきた。

 目のふちだけ赤くして笑っていた。

 
 時には病院のベッドで、包帯でぐるぐる巻きになってうなっていた。

 
 父の仕事が命がけだったから、私も無駄遣いはしない子だった・・

 

 

 1月ほど前、札幌市内の中学校(新琴似中学)の同窓会の幹事をしたおり、40年ぶりにお会いした数学の教師が意外なことを言った。

 
 「内川君、あんた炭坑の出身だったよな。あのころな、炭坑から編入してきた生徒は、皆、ものが分かっていて大人だった。勉強もよくできた。地元の生徒達とはぜんぜん違った。」

 
・・・。

 

 東に輝く夕張岳を見ていて、ありありと思い出したのは、貧乏の中にもうきうきした気持ちでいた中学1年の頃の感覚だった。

 
 あの頃、父の死におびえる毎日から解放されたことが心からの喜びになっていたのだった・・

 

 そして・・それにもかかわらず・・

 

 私の故郷は、あの明るく輝く山のふとに今もあって、そして、誰のためにでもなく静かに冬を待っているのだ。

 

 

(2003年11月10日 記)


随想

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