20261

 

珍しくふるさとの夢を見た。

炭砿病院を過ぎたあたりからその夢は始まった。

 

栄町の通りを駅に向かってひとり、車で走っていた。

「あれ、ダムに沈んだはずだが・・・」

そう思いながら、雑草が生い茂り、人のいなくなった無人の商店街を走り抜けた。

 

右手の錦町の山の方に一台の車が止まっていた。

古い木造の炭砿住宅の前に、老夫婦が立っていた。

 

老人は、車の外で本のようなものを片手に、周りを懐かしがるように見ているようだった。

 

「こんにちは」

話しかけると、老人はここで、大きな古い薬屋を営んでいたらしい。

 

「ああ、こんな大きくて立派な看板がかかっていましたね」

 

と、言葉をつなぐと、男は、なにかをしきりにつぶやいていたが、言葉も体もあいまいになり、消えて行ってしまった。

 

 

 もどかしさを感じながら、気がつくといつの間にか、富士見町の山の高台にある家にきていた。

 

 

 誰もいなくなったはずの家の玄関には、たくさんの靴が並べられていて、中には、何人かの人々がいた。

 一緒になった女性のあとをついて、玄関で靴を脱ぎ、2階に上がっていった。

 

 

 2階からは、息をのむような、すばらしい眺望がひろがっていた。

 壁面いっぱいに大きく窓がとられ、そこから青々と光に輝く湖の水面が見える。

 

 畳敷きの大きな部屋に、大勢の年老いた女性たちがいた。

 背中が丸くなった老婆たちだ。

 皆座って窓の外をみている。

 中から再会を懐かしむ声も時折聞こえた。感極まったのか涙を流している老婆もいた。

 

 話をしてみようと言葉をかけてみたが、皆だれも、応じなかった。

  

 ただただ、窓から見える大きな湖の風景を見つめているその姿に、彼女たちは、心の中でもう一人の自分と話をしているように見えた。

 

 家を出ようと、階段を下りていくと、地下室に出た。

 

 地下室から、また別の夢が始まったのだった。

 

 

 

(2021年9月7日 記) 


備忘録

 

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