時計屋さんの白ネコ | 内川准一
2022-06-13
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ずうっと考えていました。
岳富町の時計屋の窓にいたという、両眼の色が異なる猫のことです。
昭和37年まで、弥生町の我が家で飼っていた猫がそうでした。
白地に茶色の斑が混じる二毛ネコで、片眼が金色に近い黄色で、もう一方がブルーグレーのような色でした。
大夕張では、他に見たこともない猫でした。
M子と名付けたその猫は、我が家で4年間かわいがっていました。
頭のいい猫で、ネズミもスズメも良く捕りました。
私には特になついていて、言葉が分かるのかと思うほどでした。
けれども、我が家が大夕張を離れるとき、
「猫は家につく」と言われ、
泣く泣く、長屋のお隣に住んでいた茂木さんにお願いし、譲ったのでした。
それから数年して、M子がいなくなったと連絡がありました。
今でも(いまだに!)悔やまれるのは、人(自分)の身勝手さです。
人間ならば、生きてさえいれば、消息をたどり、詫びることもできるのに、裏切ることになってしまったM子には、(何処にいるのか捜すことも)どう感じていたのか、聞くことも謝ることも出来ません。
昭和54年に初めて再訪した大夕張で、眼の色の異なるMの子孫を捜す自分に驚いたことを覚えています。
今住んでいる室蘭の、幸町界隈を走り回る眼の色の異なる野良猫を見て、いつも、この猫の幸運を祈るのです。
(この猫は真っ白で、眼は緑と青の組み合わせです。)
こんな想い出を持つ人は他にもきっといるんだろうな。
そして、これと全く逆の想い出を持つ人もいるかもしれない。
いずれにしても、地域の崩壊は、誰にとっても過酷な現実だった。
岳富町の時計屋さんのネコは、きっとM子の子供だと思います。
(2000年1月7日 記)