時計屋さんの白ネコ |  内川准一

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 林さんの『猫とブルドック』の話を読んで、

 

 ずうっと考えていました。

 
 岳富町の時計屋の窓にいたという、両眼の色が異なる猫のことです。

 
 昭和37年まで、弥生町の我が家で飼っていた猫がそうでした。

 
 白地に茶色の斑が混じる二毛ネコで、片眼が金色に近い黄色で、もう一方がブルーグレーのような色でした。

 
 大夕張では、他に見たこともない猫でした。

 
 M子と名付けたその猫は、我が家で4年間かわいがっていました。

 
 頭のいい猫で、ネズミもスズメも良く捕りました。

 
 私には特になついていて、言葉が分かるのかと思うほどでした。

 
 けれども、我が家が大夕張を離れるとき、

 「猫は家につく」と言われ、

 
 泣く泣く、長屋のお隣に住んでいた茂木さんにお願いし、譲ったのでした。

 
 それから数年して、M子がいなくなったと連絡がありました。

 
 今でも(いまだに!)悔やまれるのは、人(自分)の身勝手さです。

 
 人間ならば、生きてさえいれば、消息をたどり、詫びることもできるのに、裏切ることになってしまったM子には、(何処にいるのか捜すことも)どう感じていたのか、聞くことも謝ることも出来ません。

 
 昭和54年に初めて再訪した大夕張で、眼の色の異なるMの子孫を捜す自分に驚いたことを覚えています。

 
 今住んでいる室蘭の、幸町界隈を走り回る眼の色の異なる野良猫を見て、いつも、この猫の幸運を祈るのです。

 
(この猫は真っ白で、眼は緑と青の組み合わせです。)

 
 こんな想い出を持つ人は他にもきっといるんだろうな。

 
 そして、これと全く逆の想い出を持つ人もいるかもしれない。

 
 いずれにしても、地域の崩壊は、誰にとっても過酷な現実だった。

 
 
 岳富町の時計屋さんのネコは、きっとM子の子供だと思います。

 

 

(2000年1月7日 記)


思い出ばなし

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