スイングバイとSF|高橋正朝 #5

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 私が住んでいた明石町番外地の自宅の斜め後ろに、小林順治さんが住んでいた。彼の2歳上に、和子さんがいた。

 ある日、彼女がもういらないからと言って、旺文社だったか学習研究社だったか覚えていないが、学年雑誌を二十冊ほどいただいたことがあった。鹿島中学校の1年生のときだったように思う。

 ご存知のように、学年雑誌の厚さの半分は、勉強に直接関わる内容だ。他に、詩やエッセー、小説などもあり、読者の投稿作品なども載っていた。今の時代には考えられないことだが、ペンパルの募集のページもあり、年齢、個人名、そして住所も記載されていた。

 私の大好物 ? のマンガも載っていたが、連載ものは1本ぐらいである。いただいた雑誌には、木下藤吉郎を主人公にしたマンガが数カ月間連載されていた。作者は、古沢日出夫 である。この人は、多作というほどではなかったが、大手のマンガ雑誌にも描いていた。

 いただいた雑誌には、別な月には短期連載のマンガもあったが、作者や内容は、まったく覚えていない。

 時には、読み切りマンガが特別に載ることもあった。その読み切りマンガの1作品の一部分の内容を印象深く覚えている。作者は誰だったか、ハッキリとは覚えていない。新人だったかもしれないし、いずれにしても売れっ子のマンガ家ではなかった。

 名前が、光乗 と書かれていたような気がするが、普通、目にしない名前である。試しに、ネットで、「 漫画家、光乗 」で検索してみたら、なんと、切明畑 光乗( キリアケハタ ミツノリ) とでてきた。

 苗字も名前も大変珍しい。残念ながら、この人物についての詳細情報は、ネットでは見当たらなかった。

 この学年雑誌に載っていたこのマンガの題名は、まったく記憶していないが、この人のオリジナル作品だったように思う。原作者の名前はクレジットされていなかったのは、ハッキリと覚えている。

 名前のほうだけうっすらと覚えていたのは、「 光乗 」は、「 ミツノリ 」と読むのかなぁ、と曖昧ながらもそう推測していたせいだと思う。マンガのアイデアが、真実はともかくとして、科学的な雰囲気があるものの、突飛な感じがしたせいもある。苗字のほうは、見たことも聞いたこともない、それに、どう発音するかも見当がつかないので、すっかり記憶を抹消してしまったらしい。ただ、苗字も名前も風変わりだった印象を持った記憶はあった。

 このマンガは、SF 作品だった。 なぜ印象深かったかという粗筋はこうだ。

 宇宙を航行している宇宙船が、このままだと、太陽の引力に引き込まれ続け、宇宙船が消滅してしまう。それで、乗員の最も若い青年が、太陽の引力に引き込まれ続ける宇宙船を反転する方法として、次のように提案する。

 宇宙船が、太陽の引力に引き込まれながら、角度をつけてロケットエンジンで宇宙船を加速する。宇宙船は、更に太陽に近づくが、角度がついているので、振り子の原理で方向反転できる上、加速できるというものだ。

 乗員たちは皆賛成するが、運転室は最も熱くなり、誰が運転するかで、提案者の青年が自己犠牲の精神を発揮する。

 宇宙船は、見事、方向反転して加速しながら太陽から離れていく。宇宙船が安全圏に達してから、別室に退避していた乗員が運転室にきてみたら、青年の上半身は溶けており、しかも、その青年は、ロボットだった••••••。

 このマンガが描かれた頃は、振り子の原理で、恒星や惑星の引力を利用して宇宙船の方向転換したり加速したりする方法は、当時のマンガや SF 小説などには出てこなかった。

 光速ロケットや、ワープ航法などは、すでに空想モノとしてアイデアがでていた。宇宙船の乗員が人工冬眠状態で宇宙を移動するアイデアもあった。映画、「猿の惑星」、「エイリアン」などでは、宇宙船の乗員に扮している俳優が、冬眠状態から覚醒する場面がある。

 スイングバイの概念は、SF 小説、映画、マンガの世界だった。映画では、「2001年宇宙の旅」、「オデッセイ」などにも出てくる。しかし、このマンガを見た当時、本当に実現できるとは思わなかった。単なる空想モノと思った。

 「ボインジャー」など、現実に、地球の引力圏を脱出した衛星が、スイングバイをしながら、地球を離れていったりしてるもんなぁ。直接見たことはないけど••••••。

 同じく、スイングバイした「 はやぶさ2 」が地球に帰還するのは、今年の12月6日予定らしいから、もうすぐだ。資料のはいったカプセルをオーストラリアの沙漠に投下し、イオンエンジンの燃料のキセノンが、半分ぐらい残るので、他の天体にむかうようだ。

 興味のある人は、JAXA 「宇宙航空研究開発機構」のブログをどうぞ。

(2020年9月26日 記)

  


(筆者略歴)

昭和23年11月に明石町生まれ。鹿島東小学校から鹿島中学校に進み、夕張工業高校の1年の3学期に札幌に一家で転住。以後、仕事の関係で海外で長く生活。現在は、タイ、バンコクで暮らす。


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