食憶(その11 お湯)|長谷川潤一

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 冬の味の大元だと思うんですが、湯沸かしのお湯のことなんです。

 ほとんどの家では当然石炭ストーブでしたよね、鋳物のフジキ式とか鉄板のやつとかいろいろ。

 

 ひょうたん型やトラックオーバル型、後部にいくと煙突が出るだけの尻すぼみ型、石炭をまとめて投入する山高型、前からジュウノでくべるのとか上部の丸フタをデレキで引っ掛けて開け、さらに何重かのドーナツ状のフタを上げて、オキを突っついたのとか。

 そして、湯沸かし器です。

 銅、真鍮、ステンレス製などで、これ用のスタンドまでありましたよね。

 上から見た断面が満月から六日ぐらい?経ったような欠けたお月様のようになっていて、その欠けたところがストーブの後部側面に大体ピッタリくるような作りで、針金でグルッと巻いてガッチリつけていましたね。

 いっつもストーブをガンガン焚いて、湯沸かし器がグラグラ煮えて、お茶でもご飯支度でも即席麺でも、掃除の雑巾掛けでも何にでも使ってました。

 

 実際のお湯の味というよりも、とくに冬場はそこの家のニオイというか、住んでる人の風味というか、カラーがちょっぴり解ったものでした。

 それは窓に張った防寒対策のビニールが、すきま風の流れを止めていたせいです。

 よそんちに入ると、湯沸かしからの湯気加湿にのって、たばこの臭い、漬け物の臭い、線香の臭い、

 なんか油っぽい臭い、防虫剤の臭い、食事時の臭いなど、そこの家に入った瞬間、モワモワーッと顔に当たりました。そこにはいろんな人たちのいろんな生活のニオイがありました。

 

 うちはきっと、かなり焼酎臭かったでしょう、ははは。

(2001年3月19日)


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