食憶(エピソード1)|長谷川潤一

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 先日、ちょっと息子の夏休みに同調して、家族で釧路方面に行ってきました。


 和商市場で、鮭やイクラなどを買い込み、帰りの車の中で筋子にまつわる話をしました。

 それは、採炭で先山をやっていた父のお弁当のおかずのことです。

 父が現場に持っていく弁当のおかずの定番に、筋子がありました。

 毎月14日の会計の日になると、詰所に、組合員証と判子を持っていき、給料と明細を持ち帰った母はすぐ筋子を一箱買います。

 白木でB4ぐらいの大きさで、緑色の油紙状のもので内張りしてあり、結晶化した塩が箱の隙間からギザギザと溢れ出ていて、釘を抜いて開けると、筋子の油と濃い塩の匂いとが、強烈なえぐみと甘いくどさの固まりとなって、その箱の中にギッチリと詰まった深い赤味から圧してきました。

 父に聞くと、坑内はかなり暑く汗まみれで働くとのこと。塩分補給もかねて食も進む、しょっぱいおかずがいるとのことでした。

 アルミのドカ弁に大切りの筋子、ぎゅうぎゅう詰めの白飯、空いたQPマヨネーズの大きいチューブに水を入れて冷蔵庫で凍らせてお茶代わり、食事休みはみんなの手前、15分から20分ぐらい、暗闇の現場での食事のために、ヘッドランプのもとでも判りやすく、キラキラと光る大きなフォークを使い、早飯は美徳という根っからの労働者であった父の弁当を思い出しました。

 皆さんのとこはどんな「おかず」が、メインでしたでしょうか?

(1999年08月02日 記)


 (筆者紹介)

 S33年大夕張生まれ。彼の大夕張での記憶は他を圧倒する。 


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