酸とアルカリ その2 |高橋正朝 #59

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 以前書き込んだことだが、pH( ペーハー )の表を、鹿島中学校2年生の理科の教科書に載っていたのを眺めながら、強アルカリは、どういう現象を引き起こすのだろうか?と、疑問に思い、その疑問を持ち続けていた。

    

 石けん液が目に入るとしみる。 これは誰でも経験して知っている。

    

 鹿島東小学校の生徒だったとき、授業で石けんを作るため、女子生徒が薬局に苛性ソーダを買いに行ったら、小学生だからと言われて、断られたということがあった。

 そういうことだから、危険なモノだという想像はできる。

    

 美空ひばりが、硫酸( 実際は塩酸だったらしい )をかけられた傷害事件もあった。

    

『 そ〜だ そ〜だ ソーダ屋のソースケさんが、ソーダ飲んで 死んだそ〜だ、葬式まんじゅう デッカイそうだ 』

のダジャレ歌ではあるが、ソーダというものは、飲むと危険なもののようだ、という想像はしていた。

    

 酸は金属を溶かすなど、何やら危険なモノだと感じるのだが、強アルカリについては、危険性については今ひとつわからなかった。 

 これは、硫酸蓄電池を、水の電気分解のときに使用したり、自動車用のバッテリーなど、表層的ではあるが、ある程度、硫酸のことを知っていたからだと思う。

 ところが、強アルカリ性物質を日常的に見ることはなかったので、危険性についての実感はなかった。

 

      

 化学実験をしたり、化学製品を作るような会社に勤めていれば、強アルカリの性質を正確に把握しているだろうが、私には、そういう経験はなかった。

    

 東京でビル管理の仕事をしていたとき、そのビルの電気設備の制御装置のバッテリーがアルカリ蓄電池で、電解液は水酸化カリウムを使用していた。

 今でも、電気設備の制御装置用のバッテリーは、硫酸蓄電池が主流で、アルカリ蓄電池は、当時としては大変珍しい。

 メンテナンス用に、水酸化カリウムの結晶が入った白濁色のプラスチックの容器が、蓄電池装置の傍にあった。

 その容器から、水酸化カリウムの結晶を指で2〜3粒つまみ出し、しげしげと眺めた。

      

 また、ビル管理なので、排水管洗浄剤として、水酸化ナトリウムと水酸化カリウムの結晶を混合したものを入れた白濁色のプラスチック容器もあった。

 その洗浄剤の商品名は有名だが、ここには書かない。

 容器には、結晶の混合比が表記され、注意書きの表示もあった。   

 意味としては、

 

『 取り扱い注意。皮膚に触れたら、水ですぐに洗浄すること 』

 

 この注意書きは、アルカリ蓄電池用の水酸化カリウムの結晶が入っている容器にも、同様なことが書かれていた。

   

 注意書きがあるのに、混合されたその結晶を、手のひらに少量のせて眺めていた。

 結晶は小さいものだが、氷砂糖を連想させるシロモノだった。 『 ペロリ 』と舐めることはしなかったが ••••••。

    

 場所は変わって、アルジェリア。

    

 このプロジェクトは、化学プラントで、私が赴任したときは、工場が完成してからすでに6年ぐらい経っており、運転及びメンテナンスの時代だ。

    

 ある夜の10時すぎ、1人で帰るとき、工場敷地内の道路を歩かず、緑地帯を横切ろうとした。

 道路沿いには外灯はあるが、緑地帯には、道路沿いの外灯の灯りはほとんど届かない。

 その緑地帯には、芝生もどきの雑草だけのはずだが、見なれない、黒っぽい、高さが50センチぐらい、1m四方ぐらいの小山のようなものができていた。 その日の昼にはなかったものだ。

    

 近づいて目を凝らして見たら、土のようなものだった。 安全靴を履いた右足で、その土をチョンチョンとしたら、その感触は泥のようなものだった。 泥のようなものだとわかったので、少し足を踏み入れた。 ただし、手ではその泥に触れていない。

    

 宿舎にもどり、夜食を摂って寝た。

    

 翌朝、出勤のため、作業服を着、安全靴を履こうとしたら驚いた。 右足の安全靴が、ゴム底を除いてボロボロになっていたのだ。 左足の安全靴も、右足ほどではないが、ボロになっていた。

 

 ボロボロになった部分は、前夜、泥のようなモノを、安全靴でチョンチョンと触れたあと、少し足を踏み入れた際、盛り上がった泥が、足の側面から上縁にくっついたのを、雑草になすりつけて拭い去ろうとした箇所だった。

    

 大夕張の子ども時代、特に、粘土質の道路を歩いたときに、長靴に泥がこびり付き、その泥を、付近に、木や石がない場合、雑草にこすり付けて拭い去ったものだが、それと同じしぐさをしたわけだ。 靴底についた泥を、反対側の長靴のつま先でこそぎ落とす行為も同様だった。

    

 前夜、安全靴を履いた右足でチョンチョンとした泥は、強アルカリ性の汚泥だった。

   

 その強アルカリ性の汚泥を、緑地帯に捨てたことについては、日本人はまったく関与していなかったようだ。 2日後には、その強アルカリ性の汚泥は、緑地帯から取り除かれた。 どこに運搬したかは知らない。

    

 子ども時代から疑問に感じていた強アルカリ性の危険性を、30歳半ばにして初めて知った。 しかもテキストからではなく、実体験で知ったことになる。

    

(2021年9月26日 記)


 (筆者略歴)

 昭和23年11月に明石町生まれ。鹿島東小学校から鹿島中学校に進み、夕張工業高校の1年の3学期に札幌に一家で転住。以後、仕事の関係で海外で長く生活。現在は、タイ、バンコクで暮らす。    


1件のコメント

  • 強アルカリ性の汚泥のふみつけた高橋さんの感触で、大夕張の裏山で遊んだ時のことを思い出した。
    _
    沢のところにある土手の断面には、断層がむき出しになっているところがあった。
    その中に固い石を含んだ層とは別に灰色の粘土質の層が見られた。
    特に雨の日の後などには、浸透した水を含んで柔らかくなり、そこを掘り返すと粘土がとれて、楽しく遊ぶことができたのだった。
    土手を登るのであるから、長靴は必須だった。
    泥がついて、重くなった長靴で歩く感触。
    流れる沢の水で足踏みをしてついた泥を落とした。蕗のような大きな葉っぱの草が特に拭き取るのには便利だった。
    _
    そういえば、最近あまり履かなくなった◯◯ウマゴムの、ゴム長とともに、そんな遊びのことを思い出した。

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