道玄坂の思い出 その3|高橋正朝 #125  

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 日本は、これから、最も寒い時期になる。

 私は海外に出るまで、東京に14年間ほど住んでいたが、最初の冬は、北海道に比べて暖かいなァと感じたが、翌年の冬からは、えらく寒く感じるようになった。

 特に、家の内の寒さには閉口した。

 とはいうものの、大夕張に比べれば、気温は高いのだが ••••••。

   

 現代の東京では、雪が降るとしたら、2月から3月にかけてだ。

 14年間住んだが、1月に降ったこともあったが、積もる、というほどでもない。

 

   

 1981年の2月半ばに、朝から、わりと雪が降り続き、午後になっても止まなかった。 念の為、気象庁のデータをチェックしたら、2月17日に、積雪2cm となっている。 たった 2 cm である。

    

 西暦を覚えているのは、その年に、リビアに飛び立ったのと、下2ケタの81 は、日本の国際電話識別番号と同じなので、記憶しやすかったことによる。

   

 ビルの最上階にある社食で昼食を摂りながら、誰彼となく、下手すりゃ、国電も止まるなァと、窓外を眺めながらつぶやいた。 高級家具を売っている店なので、普段でも客は少ない。

 この日は、朝から雪だったので、客は全然こなかった。

 道玄坂は緩い坂だが、それでも、坂は坂である。

 大夕張に比べれば、微々たる雪でも、東京の歩行者には難儀だ。 店は午後の早いうち、臨時休業になった。

 

 メンテナンス要員の相棒は、旭川出身なので、2人して、『 このぐらいの雪で交通マヒになるなんて、ホント、東京は雪に弱いなァ 』と言いながら、ボイラーや空調設備を止め、シャッターやドアの閉鎖を確認してから、ビルを退出した。

    

 
 実は、今回、別なことを書くつもりでしたが、Kawauchi  Masami さんが、〘 雪から抜け出す方法 〙を書いていたのを読んで、沙漠の砂地から抜け出す方法を連想したので、それを書くことにしました。 

  

 沙漠地帯のマイクロ通信基地局を管轄していた我々の自動車は、T 社の四輪駆動車でした。

 

    
 私が初めて現地の宿舎に到着した日の朝、機器の故障信号が無人基地局から送信されたらしく、それで、私が宿舎に到着して早目の夕食を摂ってからすぐに、陽が落ちた道のない沙漠に入り込んだ。

 

 マ、緊急事態なわけです。

 

 故障信号は、代表信号なので故障の種類まではわからず、どのような故障なのかは、現場に行ってからのチェックとなる。

    
 本来なら、四輪駆動車2台を、リビア人運転手がそれぞれ運転するのだが、緊急事態なので、リビア人運転手は1人、もう1台は、半年前から来ていた、24歳の若い日本人青年、他は、私と3カ月ぐらい前に着任していたほぼ同年輩の男性だった。

    
 沙漠に入ってから、リビア人運転手が停車し、青年も車を止め、2人で、宝石を散りばめたような夜空を仰いで暫し眺めるのだ。

 

 『 アジさん、大丈夫だよ、間違ってないよ 』

と青年がリビア人運転手に言う。

   
 後から知ったことだが、そこの沙漠を走行するときは、早朝に宿舎を出発し、6時間ぐらいかけて昼前に無人基地局に到着するのが通例なのだが、このときは緊急だったので夜に移動することになったわけだ。

    
 水、食料品、予備の 20 リッターのガソリン缶7缶を積んでの出発である。

 ちなみに、我々が使用していた T 社の四輪駆動車は、ガソリン満タンで、80 リッターだった。

 

 3回か4回か、夜の沙漠で車を止め、2人で星空を見ながらボソボソ言う。

 道しるべはない。

 人工的な明かりは、我々が乗ってきた自動車のライトだけである。

 

 イヤ〜まいったなァ、エライとこ来てしまったなァ、到着した初日から一休みもせず、夜間の沙漠の移動か、イヤ〜ほんとエライとこに来てしまったなァ

 

と思ってしまった。 

 

   

 やがて目的地に到着し、3泊し、作業も無事終了した。

 

    

 帰途につくわけだが、朝5時に無人基地局を出発した。

 陽は地平線にあり、沙漠は放射冷却して清々しい。7時ごろ、携帯したフランスパンとチーズと水で空腹を満たした。

  
 そこから30分ぐらい移動してから、四輪駆動車が、沙漠の砂地にはまり込んだ。

 

 『 タカハシさん、よく見てみな。雪道にも応用できるよ 』

    

 四輪のうち、まず、後輪の2本のタイヤの空気を抜くのだ。

 いつも所持している空気圧計で測り、タイヤの空気圧を、1kgf/cm² にする。

    
 これで砂地から脱出を試みる。

 5分ぐらい試すが、脱出できないとなると、タイヤを4本とも、1kgf/cm² にしてしまう。

 そうすると、車体が、スッと砂地から抜けるのだ。

  

   
 そのまま、四輪駆動車を走行させ、砂地が堅い場所や土漠にさしかかり、運よく貨物自動車に出会ったら、その附設のエアコンプレッサーで、タイヤに空気を充填してもらう。

    

 貨物自動車に出会わない場合、初めて見る者が、『 へェ〜 』と感心するのがこれだ。

    
 ① エンジンを止める。

 ② プラグを外す。  

 ③ 手製のホースを、外したプラグの穴に接続する。 

 ④ ホースの反対側は、タイヤの空気栓に接続する。 

 ⑤ エンジンを始動させる。

   
 1本のタイヤの空気圧を、1kgf/cm² から2kgf/cm² にするのに、40分から50分かかっていた。

    
 その四輪駆動車のタイヤの空気圧の推奨値は、メーカーのカタログでは、2.2 kgf/cm² になっていたが、沙漠の熱い砂地を走行するためか、軍隊上がりの運転手は、空気充填時のタイヤの空気圧を2kgf/cm² にしていた。

 その四輪駆動車は、アスファルト舗装道路では 120 km/h で走行していたが、砂地では、砂の抵抗で、70 km/h のスピードがせいぜいだった。

 四輪駆動はガソリンを喰うので、砂地にはまり込んだときしか使用しない。

    

   
 砂丘を超えるときは、降下するときは 120 km/h ぐらいのスピードになる。 スキーやジェットコースターで降下するときのワクワク感を思い出す。  

 
 砂丘を登るときは、ズリ下がる砂と駆け登る四輪駆動車の闘いになる。

    
 最初の砂丘を降下するときは直進で、砂丘の中腹を登るまでは直進だが、中腹あたりから、砂丘の稜線に対し、斜めに登るようにする。

 そして、四輪駆動車が稜線にさしかかったら、稜線の向こう側をヒョイと覗き、目視して安全を確認してから降下する。

    
 砂地だから、稜線の頂きから、車体をいきなり直進で降下できない。

    
 よって、四輪駆動車といえども、いくつかの連続した砂丘を越えるときは、S 字を描くように走行することになる。

    
 S字走行せず、直進したらどうなるか?

    
 砂丘越えの経験のない運転手は、四輪駆動車をフルスピードで直進降下させ、直進で登ろうとする。 しかし、砂丘の稜線に辿り着くと同時にジャンプしてしまい、車体の鼻先から砂丘の崖に突っ込むことになる。

 

 そうなった車体を見たのは10 台を超える。

 それらは、車体の前部が砂地にほぼ垂直に突き刺さり、砂嵐に車体が洗われ、しかも太陽光の熱で焼かれて赤茶けていた。

    

 私が、アルジェリアで働いていた時期、一時帰国のとき、偶然隣席に座った人は、T 社の設計技士だった。

 エンジン専門ではなかったが、上記の、タイヤの空気圧を増す方法について話したら、『 面白い、タメしてみる 』と言っていた。

    
 その設計技士とは、それ以上の話はしなかったが、私には疑問があった。

  
 エンジンからのガスだから、可燃性ガスのハズだ。 走行するタイヤの熱で、不測の事態が生じないのか?  圧力は全然違うが、ディーゼルエンジンは、圧縮空気室に燃料を噴射して燃焼させるからなァ ••••••。

 静電気で、タイヤ内の可燃ガスが爆発するなんてないのだろうか ••••••。

 私は、車のメカオンチだから実際のことはわからないが ••••••。

   

  

 雪と砂では、性質はまるで違う。

 タイヤの空気圧を低くして砂地から抜け出すように、滑る雪から抜け出すのは、現実には無理なような気がするが ••••••。

 

(2022年12月31日 記)

 


(筆者略歴)

 昭和23年11月に明石町生まれ。鹿島東小学校から鹿島中学校に進み、夕張工業高校の1年の3学期に札幌に一家で転住。以後、仕事の関係で海外で長く生活。現在は、タイ、バンコクで暮らす。



 

    

     

1件のコメント

  • 大夕張で子どもの頃、雪原で一人で、あるいは大勢で、雪の中をかけたり転んだりして遊んだ。
    気持ちがよく、爽快感を感じる。
    ところが、若い頃、車であえて、そんな雪に埋まった道なき道を突進していったことが何度かあった。
    周りに大勢いるような場所であれば、「心優しい雪国ドライバー」は助けてくれるが、周りに人のいない雪原や荒野であればその車が埋まった時はどうにもならない。
    そんなことを考えることもなく、今思えば『命知らず』の一言でしかない。
     
    仕事とはいえ沙漠で走る車の話から、そんな昔のことを思い出していた。

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