タンポポの海 |斎藤敏幸

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5月の『タンポポ』 

 北の国にも、やっと春が訪れてきました。

 ここ札幌でも、中の島周辺の公園でも桜の花が開きはじめました。

 毎年、この季節になると「タンポポの海」を思い出します。

 

 当時、僕の住んでいた栄町ブロックの周辺には、木造長屋を取壊した跡地が幾つもありました。

 特に栄町の詰所の辺りは、沢山の空き地がありました。

 それらの空地には、春になると、確か5月1日のメーデーの頃には、タンポポが一斉に黄色い花をつけるのです。

 辺り一面、タンポポ達の見事な群生落なのです。

 そこに風が吹くと、黄色い花達は、まるで海原で波を打つかのように揺れ出すのです。

 いつしか僕の周りでは、この光景を「タンポポの海」と呼ぶようになりました。

 

 学校への行き帰り僕達の春は、「タンポポの海」に包み込まれていました。

 今では、当たり前のように自家用車を持ち、断熱材の住宅で冬の寒さを感じることもなくなり、いつでも好きな時間に風呂につかることもでき、当時の生活に比べ、はるかに快適な日常を手にいれることができました。

 

 でも、いつのまにか、季節の移ろいにも気づかず、時間に追われ、いつも足早に歩いている自分が見えてくることがあります。

 

 大夕張を出てからこの間、失ったものは、故郷の原風景ばかりではないのかもしれません。

 

 休日の日、大夕張のことを思い出しながら、もう一度自分の心の中に「タンポポの海」を蘇らせてみたいと思ったりしています。

(1999年5月2日 記)

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