子亡き夫婦のある日の哀と安堵 | 小野美音子

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 子供を失った母は、父の出勤後、昔風の舅と狭い家に一緒にいるのを辛く思う時があり、映画館に行ったことがありました。

 

 気兼ねなく涙を流せたからです。

 

 しかしそれも舅の意に染まず、母は妙法寺へ向かいました。

 
 裏からそっと納骨堂に入り、亡き子の骨と共に一夜を明かしました。

 

 父は、夜通し捜し歩き、妙法寺に3度も行ったのですが、納骨堂には気付かず、線路や沢も捜しました。

 

 夜明け近く、小僧さんが母を見つけ、部屋に通し、布団を敷き、休ませてくれました。

 

 目覚めた時、いつのまにか父が枕元に座っていました。

 

 母は、『帰るのを延ばしたい・・』と一瞬思ったそうですが、その日は米の配給日で帰らざるを得ませんでした。

 
 物資の乏しい時代は、母の意を通すのを許しませんでした。

 

 子だけでなく、母まで失っては大変と、必死の捜索をした父の切ない心情も、母が見つかった安堵に変わりました。

 

 そして生き抜く糧を得るために、二人でとぼとぼと千年町から緑町の社宅(※)まで歩いて帰ったそうです。

 

(※)父は当時三菱青年学校勤務の社員だったので社宅に住んでいました。

 

(2002年08月28日 記)


 

思い出ばなし

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